不動産投資の赤字は10年間使える?繰越欠損金で将来の税金を抑える仕組みを解説
- MIRAIU

- 8月12日
- 読了時間: 15分
不動産投資を法人で行っていると、決算で赤字になることがあります。
空室が重なった。
大きな修繕が発生した。
物件を取得した。
減価償却費が大きかった。
こうした理由によって、一時的に利益がマイナスになることは珍しくありません。
そこで知っておきたいのが**「繰越欠損金」**です。
一定の要件を満たす法人では、過去に発生した欠損金を将来の所得と相殺できる仕組みがあります。
つまり、
今年は赤字。
来年は黒字。
という場合に、今年の赤字が将来の税負担を考えるうえで意味を持つことがあります。
ただし、
「赤字を出せば10年間税金を払わなくていい」
という単純な話ではありません。
重要なのは、
なぜ赤字になったのか。
現金はいくら残っているのか。
翌期以降に利益を出せるのか。
純資産はどうなっているのか。
次の銀行融資にどう影響するのか。
まで一緒に考えることです。
今回は、不動産投資法人の繰越欠損金について、大家が知っておきたい基本的な仕組みと資金繰りの考え方を整理します。
▪️繰越欠損金とは何なのか
法人で事業を行い、所得計算上の欠損金が発生した場合、一定の要件を満たせば、その欠損金を翌年度以降へ繰り越せる制度があります。
例えば、
1年目 ▲300万円
2年目 +200万円
だったとします。
一定の要件を満たして繰越欠損金を利用できる場合、1年目の欠損金を2年目の所得から控除することができます。
この例を単純化すると、
+200万円 − 200万円 = 0円
となり、1年目の欠損金300万円のうち100万円が残るイメージです。
その残った欠損金についても、要件を満たす範囲でその後の事業年度へ繰り越していくことになります。
赤字はその年度だけで終わるのではなく、将来の黒字と関係する場合があるということです。
▪️法人の欠損金は原則10年間繰り越せる
青色申告書を提出した事業年度に生じた法人の欠損金は、一定の要件を満たせば、その後の事業年度で繰越控除できます。
現在の制度では、対象となる欠損金について原則として10年間の繰越期間があります。
ただし、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していることや、その後も確定申告書を継続して提出することなどの要件があります。
また法人の規模などによって、所得から控除できる金額の制限が異なる場合があります。
そのため実際に利用するときは、税理士などへ確認することが重要です。
大切なのは、
「今年赤字だから終わり」ではなく、その赤字が将来どのように使える可能性があるのかまで把握しておくことです。
▪️300万円の赤字が翌年どうなるか考えてみる
もう少し具体的に考えてみましょう。
1年目に300万円の欠損金が発生。
2年目に500万円の所得が出たとします。
仮に300万円全額を控除できる条件であれば、
500万円 − 300万円 = 200万円
という形で、課税所得を計算することになります。
つまり1年目の赤字が、2年目以降の税負担を考えるうえで意味を持つことになります。
ただし、ここで重要なのは、
300万円の赤字を出したから300万円得したわけではない
ということです。
本当に300万円の現金を失って赤字になったのであれば、その現金は戻ってきません。
税負担が軽くなる可能性があることと、現金を失うことは別問題です。
▪️「現金を失った赤字」と「減価償却による赤字」は違う
不動産投資では、同じ300万円の赤字でも中身が大きく違います。
例えば、
空室が続いて家賃収入が減った。
大規模修繕で現金を300万円使った。
という赤字と、
減価償却費によって帳簿上の利益が圧縮された。
という赤字では、実際の現金の動きが違います。
減価償却費は帳簿上の費用になりますが、その年に同額の現金支出を伴うとは限りません。
そのため、
帳簿上は赤字。
しかし銀行口座の現金は増えている。
という状態も起こります。
繰越欠損金を見るときも「赤字額」だけではなく、その赤字が何によって生まれたのかを見ることが重要です。
この仕組みは直近の記事で詳しく解説しています。
▪️減価償却を使った赤字なら何でも良いわけではない
減価償却によって帳簿上の赤字を作りながら現金を残せるケースがあると、
「それなら減価償却を大きく取れる物件を買えばいい」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、物件購入の目的が節税だけになるのは危険です。
減価償却が大きくても、
空室が多い。
修繕費が高い。
家賃が下落している。
ローン返済が重い。
出口で売却しにくい。
という物件なら、実際の現金が減る可能性があります。
節税できる物件と、儲かる物件は同じとは限りません。
「あえて赤字にする」という考え方についてはこちら。
▪️欠損金を使うには将来黒字になることも重要
繰越欠損金は将来の所得と相殺する仕組みです。
ということは、将来的に利益が出なければ、その効果を十分に活用できない可能性があります。
例えば大きな欠損金を持っていても、
空室が続く。
修繕が毎年発生する。
家賃収入が減る。
返済負担が重い。
という状態が続き、毎年赤字ならどうでしょうか。
欠損金は増えていきます。
しかし経営そのものが改善しているわけではありません。
不動産投資で重要なのは、
赤字を作ることではなく、将来的に利益と現金を生み出せる資産を持つことです。
▪️赤字を作るために現金を使うのは本末転倒
決算前になると、
「利益が出そうだから何か買った方がいい」
「修繕を前倒しした方がいい」
と考えることがあります。
必要な修繕や設備投資を適切な時期に行うこと自体は重要です。
しかし税金を減らすことだけを目的に、不必要な支出を増やすのは慎重に考える必要があります。
例えば100万円使って税負担が30万円減ったとしても、単純化すれば70万円の現金は減っています。
しかも不動産投資では、
突然の設備故障。
退去。
原状回復。
固定資産税。
大規模修繕。
などに現金が必要です。
節税額より「節税したあと手元にいくら現金が残るか」を見ることが重要です。
現金を残す重要性はこちらでも詳しく解説しています。
▪️繰越欠損金があっても現預金が増えるわけではない
繰越欠損金は税務上重要な数字ですが、それ自体が銀行口座の現金になるわけではありません。
例えば、
繰越欠損金500万円。
現預金100万円。
という法人もあり得ます。
一方で、
繰越欠損金100万円。
現預金1,000万円。
という法人もあります。
どちらが資金繰りに余裕があるかは、繰越欠損金だけでは判断できません。
大家が経営を見るなら、
利益。
欠損金。
現預金。
借入残高。
純資産。
キャッシュフロー。
を一緒に確認する必要があります。
税務上有利な状態と、資金繰りが強い状態は別物です。
▪️節税で浮いた現金を次の資産へ回す
節税の本当の価値を考えるなら、
「税金が減った」
で終わらせないことも重要です。
例えば適切な税務処理によって100万円の現金を多く残せたとします。
その100万円を、
修繕予備費として残す。
次の物件の自己資金にする。
借入返済に備える。
新しい収益物件の取得に使う。
といった形で活用できれば、将来の資産形成につながります。
節税の目的は税金をゼロにすることではなく、残した現金を経営に活かすことです。
次の投資先や不動産投資の選択肢を比較したい方はこちら。
▪️赤字決算は銀行融資にも関係する
不動産投資で物件を増やしたいなら、税金だけではなく銀行融資も考える必要があります。
金融機関の審査は一律ではありません。
そのため、
「赤字なら絶対融資が出ない」
とも、
「減価償却による赤字なら絶対問題ない」
とも言えません。
重要なのは、自分の決算内容を説明できることです。
なぜ赤字なのか。
減価償却費はいくらなのか。
実際のキャッシュフローはいくらなのか。
現預金はいくらあるのか。
借入はいくらあるのか。
今後黒字化できるのか。
こうした内容を把握しておく必要があります。
節税のために決算を考えるだけでなく、次の融資まで含めて財務戦略を考えることが重要です。
決算書と融資についてはこちら。
▪️赤字決算でもBSが強くなっているケースはある
不動産投資ではPL上の利益だけでなく、BSを見ることも重要です。
例えば減価償却によって帳簿上は赤字だったとしても、
現預金が増えている。
ローン元本を返済している。
借入残高が減っている。
純資産が積み上がっている。
という状態なら、赤字という一つの数字だけでは経営状態を判断できません。
反対に黒字でも、
現預金が減っている。
新しい借入が急増している。
返済負担が大きくなっている。
という状態なら注意が必要です。
PLの赤字・黒字だけではなく、BSが前年より強くなったのかまで確認することが重要です。
純資産と現金の関係はこちら。
▪️繰越欠損金とローン返済は別々に考える
繰越欠損金があるからといって、銀行へのローン返済が減るわけではありません。
例えば帳簿上赤字になり、税負担を抑えられたとしても、
毎月20万円のローン返済があるなら、その返済は続きます。
年間なら240万円です。
さらにローン返済のうち元本部分は、現金が出ていく一方で、同額が経費になるわけではありません。
そのため、
税金は少ない。
しかしローン返済で現金が残らない。
ということもあります。
節税できているかどうかと、返済後に現金が残るかどうかは別の問題です。
ローン返済と純資産についてはこちら。
▪️欠損金には「繰り戻して還付」という考え方もある
法人の欠損金には、将来へ繰り越す方法だけでなく、一定の要件を満たす場合に過去の所得へ繰り戻して法人税の還付を請求できる制度もあります。
例えば前期に利益が出て法人税を納付し、今期に欠損金が発生した場合です。
一定の中小法人等では、要件を満たせば欠損金を原則として前1年以内に開始した事業年度へ繰り戻し、法人税の還付を請求できる場合があります。
つまり赤字が出たときには、
将来の黒字と相殺する。
過去の黒字へ繰り戻す。
という選択肢が関係する場合があります。
ただし適用条件や実際の有利不利は法人ごとに異なります。
資金繰りまで考えるなら、欠損金を「将来の節税」だけでなく「現在の現金」にどう影響させられるか確認することも重要です。
▪️繰り越すか繰り戻すかは現金まで考える
例えば今年300万円の欠損金が発生したとします。
今後利益が大きく出る見込みがあるなら、将来の所得との相殺を考えることができます。
一方で前期に法人税を納付しており、現在の資金繰りを厚くしたい場合には、要件を満たせば繰戻し還付を検討できる場合があります。
どちらが有利なのかは、
過去の利益。
将来の利益見込み。
現在の現預金。
税率。
その他の税務状況。
などによって変わります。
だからこそ、単純に、
「10年間使えるから残しておこう」
と判断するのではなく、税理士と相談しながら決めることが大切です。
▪️現金不足なら節税より資金繰り改善を優先する
不動産投資法人で最も避けたいのは、
繰越欠損金はたくさんある。
しかし銀行口座に現金がない。
という状態です。
税務上の欠損金があっても、
給湯器交換。
外壁修繕。
退去。
固定資産税。
ローン返済。
を欠損金で支払うことはできません。
支払いに必要なのは現金です。
そのため現預金が少ない状態なら、
空室改善。
家賃設定。
経費削減。
返済条件。
不要資産の整理。
など、実際のキャッシュフロー改善を優先する必要があります。
会社を守るのは欠損金ではなく、最終的には手元の現金です。
▪️築古物件なら「節税」と「修繕」をセットで見る
築古物件は減価償却を考えるうえで注目されることがあります。
しかし築年数が進んでいるほど、修繕リスクも考える必要があります。
例えば、
減価償却によって税負担を抑えられた。
しかし購入直後に外壁と屋根で300万円。
さらに給湯器交換で30万円。
退去による原状回復で50万円。
となれば、現金は大きく減ります。
だから築古物件では、
税務上どれだけ経費化できるか。
だけでなく、
購入後にいくら現金が出ていく可能性があるか
まで確認する必要があります。
リフォームやリノベーションを検討する場合は、複数の選択肢を比較して費用対効果を確認することも重要です。
築古物件のリフォーム・リノベーションを検討している方はこちら
▪️10年間あるからと安心しすぎない
繰越期間が長いと、
「いつか使えばいい」
と思うかもしれません。
しかし欠損金を利用するには、その後に所得が発生する必要があります。
さらに期間にも限りがあります。
そのため、
あといくら欠損金が残っているのか。
いつ発生した欠損金なのか。
いつまで利用できるのか。
今年はいくら使ったのか。
を毎年確認しておくことが重要です。
税理士から決算書を受け取ったら、利益だけでなく繰越欠損金の残高も確認してみましょう。
▪️次の融資を受けたいなら「赤字の説明」を準備する
次の物件購入で銀行融資を受けたい場合、赤字決算になった理由を自分でも整理しておきましょう。
例えば、
「空室が多くて赤字になりました」
と、
「賃貸事業自体のキャッシュフローは黒字ですが、減価償却費によって帳簿上赤字になっています」
では内容が違います。
さらに、
現預金。
借入残高。
返済実績。
入居率。
翌期の収益見込み。
なども合わせて説明できれば、経営状況をより正確に伝えられます。
もちろん最終的な融資判断は金融機関によります。
それでも、
自分自身が赤字の原因を説明できない状態より、数字を理解している状態の方が経営者として重要です。
融資と現預金についてはこちら。
▪️使わない不動産を持ち続けることも赤字の原因になる
収益を生まない不動産を長期間保有している場合も注意が必要です。
例えば、
長期間空室の戸建。
利用予定のない相続不動産。
大規模修繕が必要な物件。
入居需要が弱い地域の物件。
こうした不動産でも、
固定資産税。
保険。
草刈り。
建物管理。
修繕。
などの支出は続きます。
毎年赤字を生む不動産を、
「節税になるから」
という理由だけで持ち続けることが本当に合理的なのかは、一度考える必要があります。
貸す。
直す。
売る。
現状のまま手放す。
など、複数の出口を比較しましょう。
空き家や訳あり不動産の売却方法を確認したい方はこちら
▪️赤字を活用するより先に「儲かる経営」を作る
繰越欠損金は有効な制度です。
しかし不動産投資の目的は欠損金を増やすことではありません。
家賃を安定して受け取る。
必要な経費を管理する。
ローンを返済する。
現金を残す。
純資産を増やす。
そして次の物件へ進む。
この循環を作ることが本来の目的です。
一時的な赤字が発生したなら制度を正しく活用する。
しかし毎年赤字を作ること自体を目的にはしない。
「赤字をどう作るか」より「赤字になっても財務が崩れない経営」を作る方が重要です。
▪️まとめ|繰越欠損金は「赤字を資産に変える魔法」ではない
法人の不動産投資で欠損金が発生した場合、一定の要件を満たせば将来の所得から控除できる可能性があります。
対象となる欠損金については原則10年間の繰越期間があります。
また一定の場合には、欠損金の繰戻しによる法人税の還付を検討できることもあります。
しかし、
赤字だから得。
欠損金が多いほど得。
ということではありません。
大切なのは、
なぜ赤字になったのか。
現金はいくら残ったのか。
借入はいくら減ったのか。
純資産は増えたのか。
将来黒字化できるのか。
次の融資につながるのか。
まで考えることです。
繰越欠損金は、不動産経営で発生した赤字を税務上有効に活用するための仕組みです。
しかし大家が最終的に増やしたいのは欠損金ではありません。
現金と純資産です。
税金を適切にコントロールしながら現金を残し、借入を返済し、その資金を次の収益資産へつなげる。
この視点で考えることが、長期的な不動産投資では重要になります。
▪️次の資産形成につなげる
繰越欠損金や減価償却によって税負担を抑えられたとしても、残った現金を使い切ってしまえば資産は増えません。
修繕資金を確保する。
手元現金を厚くする。
そして余力ができた段階で次の収益資産を検討する。
この順番が重要です。
不動産投資の情報や次の投資先を比較したい方はこちら
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