第20回 不動産投資のハイレベル用語15選|初心者が“次のステージ”へ進むための実務ガイド

更新日:10月9日
不動産投資の資料にはDSCR、NOI、LTV、IRRなどの略語が登場します。聞き慣れない数字を理解したつもりで購入すると、利回りと現金収支を混同したり、融資を受けられる額を安全な額だと思い込んだりするおそれがあります。
このページでは15の専門用語を七つの判断場面に分け、意味と計算方法を整理します。単語を覚えることより、どの数字を買う前に確認し、どの数字を売却まで見直すかが重要です。
① NOI・DSCR・DCRは返済余力の言葉
【用語1:NOI(営業純利益)】賃料等の実収入から、通常の運営費を差し引いた収益を指します。借入金の元利返済や所得税、減価償却は通常この計算に直接入れず、定義した費用範囲をそろえて比較します。
【用語2:DSCR(元利返済余裕率)】物件から返済原資となる収入を年間元利返済額で割った比率です。たとえばNOI420万円、元利返済300万円なら1.40倍で、返済後の予備費や税金まで十分とは限りません。
【用語3:DCR】Debt Coverage Ratioなどの略称として使われ、DSCRとほぼ同義で扱われる資料もあります。『年間返済額÷年間家賃収入』を独立したDCRの共通定義と決めつけず、資料の正式名称と分子・分母を確認しましょう。
DSCRが高くても大規模修繕や家賃下落の年に資金不足になることがあります。単独の比率に固定の安全ラインを当てはめず、現金残高も確認します。
② キャップレート・イールドギャップを読む
【用語4:キャップレート(還元利回り)】NOIを不動産価格で割る収益還元の利回りです。NOI420万円、価格7,000万円なら6%。立地や建物状態、期待収益が違えば適切な水準も変わります。
【用語5:イールドギャップ】利回りと借入金利などの差を表す指標で、どの利回りを使うかにより意味が変わります。NOI利回り6%と借入金利2%の差は4ポイントですが、それがそのまま利益率になるわけではありません。
この差だけでは元金返済や取得諸費用、修繕を十分に表せません。『差が大きければ借金で必ず勝てる』と考えず、DSCRと年間現金収支も併用しましょう。
③ OPEX・LTVは費用と借入割合を示す
【用語6:OPEX(運営費)】物件を運営するための管理費、保険、固定資産税、共用部費用、通常の維持管理などです。会計・収支分析により含む範囲が異なるため、何を運営費に入れたか明示する必要があります。
【用語7:LTV(Loan to Value)】借入残高を担保となる不動産の価値で割った比率です。評価額7,000万円に対し借入5,600万円なら80%。購入額だけで計算した数値と金融機関の担保評価による値は異なる場合があります。
運営費を少なく見積もればNOIが高く見え、担保評価を大きく見ればLTVが低く見えます。数字の前提と評価時点を確認し、自己資金の余力も考えましょう。
④ PML・ストレステストは悪化への備え
【用語8:PML(Probable Maximum Loss)】不動産では主に地震などに関する一定の評価条件で想定される建物損失を表す指標です。全災害をひとつで評価する数値ではなく、算定手法や前提条件の確認が欠かせません。
【用語9:ストレステスト】家賃下落、長期空室、金利上昇、修繕費増加などの悪い条件を置き直し、返済や資金繰りが続くかを検証する方法です。未来を予言する数字ではありません。
たとえばNOI420万円・返済300万円のDSCRは1.40倍でも、NOIが350万円・返済が340万円なら約1.03倍まで下がります。空室と返済条件を同時に悪化させた場合も確認しましょう。
⑤ アンダーライティング・リキャップを区別
【用語10:アンダーライティング】購入や融資の判断に向け、賃料、空室、修繕、法令、立地などを調査して収益・リスク・価値を分析することです。金融機関だけの作業ではなく、投資家自身の検証にも使われます。
【用語11:リキャップ(資本構成の再編)】自己資本と借入金などの調達構成を見直すことです。借換えが関係する場合もありますが、単にローンを借り換えれば必ずリキャップが完了する、と同一視するのは適切ではありません。
融資審査を通ったことと、投資家にとって買ってよいことも別です。銀行の条件、自分の運転資金、売却時の残債をそれぞれ計算しましょう。
⑥ 出口戦略・FCF・IRR・中古市場の意味
【用語12:出口戦略(Exit Strategy)】売却、保有継続、建替えなど将来の選択を準備することです。購入時点で十年後の売却想定額と残債、手数料を確認し、売れない期間の費用も見込みます。
【用語13:FCF(フリーキャッシュフロー)】投資分析で使う現金余力の概念です。物件の分析ではNOIから資本的支出や元利返済などを差し引く方法がありますが、分析目的ごとに定義が違うため、税引前後と予備費を明示します。
【用語14:IRR(内部収益率)】購入時の支出、保有中の収支、売却時の現金を時点ごとに置いて求める収益率です。売却価格の仮定を高くすればIRRも上がり得るため、数字だけで投資成功を保証しません。
【用語15:セカンダリーマーケット】新築ではなく既存物件が取引される中古市場のことです。『中古市場があるから価格が下がらない』のではなく、需要・融資・建物状態で売却可能性は変わります。
⑦ 15用語を購入判断に使う四つの順番
第一にOPEXを明示してNOIを計算し、キャップレートとイールドギャップの前提をそろえます。
第二に借入額と物件価値からLTVを求め、元利返済額を使ってDSCRを確認します。DCRなど略称の不明確な数字は定義を確かめます。
第三に修繕費・金利・空室・地震等のリスクを踏まえてストレステストを行い、現金収支が続くか確認します。
最後に売却価格と残債を複数ケースで置き、出口戦略・FCF・IRRを計算して買うか見送るか判断しましょう。
⑧ よくある質問
Q1. DSCRとDCRは別々の数字?
DCRは資料によって意味や計算方法が異なり、DSCRと同義で扱われることもあります。
略語だけで判断せず分子と分母、対象期間を確認しましょう。
Q2. キャップレート6%・借入金利2%なら利益4%?
差は4ポイントですが、元金返済や修繕、取得費などを十分に反映した純利益ではありません。
現金収支と返済余力を別に計算してください。
Q3. IRRが高い物件なら購入してよい?
IRRは想定した将来の現金の流れで変わり、売却価格や空室の仮定に強く左右されます。
悪い条件でも資金が足りるかストレステストを行いましょう。
⑨ まとめ
不動産投資の専門用語は、NOIやDSCRで毎年の収支を把握し、LTVやストレステストで借入と悪化時の余力を確認し、FCFやIRRで出口まで考えるために使います。
一つの比率に全国共通の安全ラインを置かず、数字の定義と前提を明示して物件を比較することが重要です。

